DNAチップとは?

平成15(2003)年、十数年をかけて行われたヒトゲノム計画(human genome project)の成果としてヒトゲノム配列の解読の完了が発表され、生命の設計図であるヒト遺伝子の塩基配列の全容が明らかにされました。その後の詳細な解析により、ヒトの遺伝子の総数は、約2万2千個と見積もられています。この計画により遺伝子の構造は解明されましたが、この成果を医療などの分野で応用するためには、これらの遺伝子の生体内での時間的かつ空間的な調節機構の解明が必須であります。そのために開発されたのが「DNAチップ」です。

DNAチップ(DNAマイクロアレイ)とは、数センチメートル角のガラス基盤に、さまざまな塩基配列の(相補的)DNAを網目状に数百から1万種類以上張りつけたDNA検出用の素子で、DNA同士が相補的な塩基配列を認識して安定な対を成す性質を利用しています。この技術は、ヒトゲノムの解読完了により到来したポストゲノム時代の課題の1つである包括的な遺伝子発現モニタリングなどに有用なテクノロジーとして注目を集めています。DNAチップはガン、遺伝子病、および高血圧や糖尿病などの生活習慣病の遺伝子診断、細菌・ウイルスなどの検出、遺伝子多型(個人差)の解析など用途は広く、新しい産業としての期待も高まっています。

「環境ホルモンチップ(商品名:EstrArray)」は、DNAチップ技術を応用して環境ホルモン物質の評価を行うために、産業技術総合研究所、埼玉県立がんセンター、および東京大学医学部が共同開発したもので、平成12年(2000)の日本分子生物学会年会で発表されました。その後平成13年(2001)2月に、産総研第1号のバイオベンチャーとして、株式会社インフォジーンズが設立され、環境ホルモンチップ(EstrArray)の共同開発と販売を行っています。

DNAチップは今もっとも注目されている技術の一つであり、歴史が浅いにもかかわらず、既に多くの分野に求められる技術となっています。またその市場規模は、2015年には世界中で400億ドルと予想されています。

 

インフォジーンズの開発した「環境ホルモンチップ」の広がる用途

1. 環境ホルモン検出用として
現在世の中に出回っている8万種類とも言われる化学物質は、そのすべての安全性や危険性が「環境ホルモン(内分泌撹乱物質」という観点で調べられているわけではありません。日常生活には多くの化学物質が入り込んでいるので、体内の複数の化学物質が複合的に働いて、環境ホルモンとして作用している可能性もあります。

人工的化学物質を環境ホルモンという観点で評価するために、産業技術総合研究所(産総研)が、埼玉県立がんセンター、東京大学医学部との共同で研究開発したのが、「環境ホルモンチップ」です。
およそ1センチメートル角のチップ上に環境ホルモン検出用のDNA断片を固定して、環境ホルモンチップを作成しました。化学物質にさらした細胞から取り出した遺伝子を、DNAチップの遺伝子と反応させ、遺伝子の働き(発現量の変化)をデータ化します。その結果から、細胞に及ぼす化学物質の影響を調べます。つまり、たった1センチメートル角の環境ホルモンチップの中に、化学物質の正体を突き止める驚異的な情報が詰め込まれているというわけです。

2. ゲノム創薬用として
「環境ホルモンチップ」は「環境ホルモン」を探しだし、その人体への影響を評価できるほか、乳ガンの新薬開発などでの利用にも応用できます。乳がん細胞が増殖するメカニズムの一つに、エストロゲン(女性ホルモン)依存性のものがあります。そのため、我々は様々な天然植物成分や化合物を探索することで、エストロゲンのブロッカーつまり、抗エストロゲン薬の開発をしています。この創薬研究にも生体内でのエストロゲン応答遺伝子の働き(発現量)が確認できる「環境ホルモンチップ」が威力を発揮します。

3. オーダーメード医療用として
現在、抗がん剤、薬剤の効果をテストする臨床試験では、同種の癌の患者であれば特に患者を区別することなく薬を投与されてその有効性が調べられております。以前の臨床試験に比べてよい結果を示した場合、その抗がん剤が承認されます。しかし、全く同じ原因で同じ病気に罹った場合でも、ある患者さんは薬が効いて完治したのに対し、ある患者さんは副作用が出てかえって悪化するケースがあります。つまり副作用に苦しむ患者さんが少なからずいることがわかっていても、当然のごとく投薬されるわけです。これは薬の吸収や分解、効き方などに個人差があるためですが、現在の医療では患者の個人差に対する配慮は十分とはいえません。

インフォジーンズの開発した「環境ホルモンチップ」を応用すれば、個人差を配慮した医療の効率化も可能になることが予想されます。つまり、患者さんのがん細胞と使用する抗がん剤を共に培養し、その応答遺伝子の動きを解析することで、その患者さんに投薬される抗がん剤、ホルモン療法の有効性を判断するわけです。「ワンサイズ・フィットオール医療」から、「環境ホルモンチップ」を導入することにより、「オーダーメード医療」の実現を乳がん患者さまへ提供することを目指し、日々研究を行っております。